研究開発情報

北海道大学/山岸准教授・林田助教らの研究成果がPLOS NEGLECTED TROPICAL DISEASESに掲載されました

バイオインクジェット印刷によるLAMP検査キットの開発
− ヒトアフリカトリパノソーマ症の検出 −

国立大学法人北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所国際協力・教育部門の教授山岸潤也氏、助教林田京子氏らは、バイオインクジェットプリンターLaboJet-500Bioを使用し、ヒトアフリカトリパノソーマ症(HAT)の病原体を検出できるHAT診断用の等温増幅(LAMP)検査キットの開発に成功しました。

概要
アフリカトリパノソーマ症はサブサハラ地方に存在する人獣共通感染症で、これまで多くの人命と家畜が失われてきました。適切に診断して早期に治療することで重症化を防ぐことができるため、診断機器の整備されていない遠隔地の病院でも、簡単迅速に、かつ正確に診断できる診断薬が求められていました。

そこで山岸教授・林田助教らは、血液検体中の病原体の遺伝子を、一定の温度で増幅して検出するLAMP法という方法を用いて、HATを診断する技術を開発しました。さらに、本来であれば−30度程度のコールドチェインが必要であった反応液を、トレハロースとグリセロールと共にインクジェットプリンターを用いて反応チューブに”塗布”することで、常温で安定な状態となった試薬を、正確に半自動化されたプロトコルで作製することに成功しました。これは超微量な液量を塗布できるインクジェットプリンターの特性を利用したもので、塗布されてすぐに水分が保存剤に置換されることで、酵素が失活することなくトレハロースのガラス状態となったことで実現しました。作製した試薬は常温で180日間保存して、安定した性能を示すことが確認されました。

本LAMP試薬は、実際の患者の血液を用いて試験が行われ、西アフリカ型のHAT患者DNA検体では72%、東南部アフリカ型のHAT患者DNA検体では80%の高い感度を示しました。マラウィで行われた急性期患者血液を用いた試験では14検体中全てが陽性を示し、100%の感度を示しました。今後、本試験法がHAT流行地における、臨床現場即時検査法として活躍することが期待されます。




図.インクジェットによる酵素の微量塗布

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この研究成果は、PLOS NEGLECTED TROPICAL DISEASES誌に掲載されています。

PLOS NEGLECTED TROPICAL DISEASES誌 掲載論文

PLOS NEGLECTED TROPICAL DISEASES誌論文ページ

論文情報

タイトル Development of a bio-inkjet printed LAMP test kit for detecting human African trypanosomiasis
掲載誌 PLOS NEGLECTED TROPICAL DISEASES
著者 Kyoko Hayashida 1) 2) , Peter Nambala 3), Nick Van Reet 4), Philippe Büscher 4), Naoko Kawai 1), Mable Mwale Mutengo 5), Janelisa Musaya 3), Boniface Namangala 6), Chihiro Sugimoto 1), Junya Yamagishi 1) 2)*

1 ) Division of Collaboration and Education, Research Center for Zoonosis Control (CZC), Hokkaido University, Sapporo, Japan
2 ) International Collaboration Unit, Research Center for Zoonosis Control, Hokkaido University, Sapporo, Japan
3 ) Department of Pathology, College of Medicine, University of Malawi, Blantyre, Malawi
4 ) Department of Biomedical Sciences, Institute of Tropical Medicine, Antwerpen, Belgium
5 ) Institute of Basic and Biomedical Sciences, Levy Mwanawasa Medical University, Lusaka, Zambia
6 ) Department of Paraclinical Studies, School of Veterinary Medicine, University of Zambia, Lusaka, Zambia
掲載⽇ 2020年10月22日
DOI 10.1371/journal.pntd.0008753
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