研究開発情報

なぜインクジェットの研究開発は難易度が高いのか?

インクジェットの研究開発の難易度が高い原因

インクジェットを応用した電子デバイスの開発は、古くから行われていましたが、2000年代にはさらなる発展をとげ、プリンテッドエレクトロニクス分野として応用展開されました。 実際に実用化しているものとして、液晶ディスプレイ分野のマイクロレンズや配向膜塗布など、いくつかの分野で見られます。

※ インクジェットの研究開発
インクジェットの研究開発といった場合、大きく分けて、以下2つの分野があります。
① 印刷分野:文字や画像の印刷分野で研究開発する
② 機能性材料で印刷する分野:色の着いたインクの代わりに、機能性材料をデジタルパターニングや塗布して、電子デバイスを作製したり、その製造装置や応用機器を研究開発する

本ページでは「② 機能性材料で印刷する分野」を中心に解説します。

しかしながら、実用化される分野は思ったほど広がりを見せず、現状壁にぶつかっている研究開発が多く見られ、インクジェット研究開発の難易度の高さがうかがえます。これらの原因として、下記の要因が考えられます。

  • 原因① 部分最適
    インクジェットの製品開発は様々な要素技術を必要とし、本来はこれらの要素技術をしっかりと擦り合わせたシステムの全体最適化を行う必要があるにもかかわらず、現状は部分最適した要素を寄せ集めただけになっている

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  • 原因② 技術不足
    インクジェット技術を使いこなすための基礎的な技術の習得が不十分である

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  • 原因③ ヘッド
    インクジェット用液材料の開発やそれに適したヘッド開発が進展していない

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原因① 部分最適の要素のみで研究を進めてしまう

全ての要素技術に精通したリーダーの元では全体最適化も可能ですが、残念ながらそのような経験者は非常に限られています。

特に難しいのは、液材とヘッドのマッチングの部分です。

産業用途としてはピエゾ方式のヘッドが主流ですが、ピエゾ方式の各社ヘッドは、原理は同じでも構造がかなり異なっており、ピエゾ方式のヘッドならどれでも同じという訳ではありません。

どのヘッドを用いても吐出できないとすれば、最も可能性のあるヘッドに合わせ込んで、液材料を開発する必要があります。しかし、どのヘッドが最も可能性があるかすらわからないのが現実ですから、液材料の開発は困難を極めます。

いずれにしても、開発には正しい開発の進め方があります。
これを軽視して、どこかのメーカーのヘッドをとりあえず入手して、入手できたヘッドでとりあえず研究を始めるというのは多くの時間と開発費を浪費します。
まずは各社のヘッドの特徴をしっかりと理解し、液材に適したヘッドの選定が必要です。
当社では各社のヘッドの特徴をしっかりと理解し、実際の吐出特性まで理解していただけるようなセミナーを開催しています。

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原因② インクジェット技術の基礎的な技術習得が不十分

インクジェットの基礎的な技術とはどのような技術なのかをまず理解する必要があります。ものづくりに特に関係の深い内容に限って挙げると、以下の技術が必要です。

吐出液に限った場合でも、液の組成設計、液の吐出特性評価技術、液の保存性評価技術など、またヘッドに限った場合でも、ヘッドの設計技術、ヘッドの特性評価技術、ヘッドの駆動に関する技術などがあります。

このように、一つの要素だけでも膨大な量の習得すべき技術があることがわかります。
しかし、これらは簡単に習得できるかというとそうではなく、現実的には長い期間とコストをかけて少しずつ積み上げていくのが現実です。

プリンターを開発する場合は、これが習得できなければプリンターは完成しないので、完成まで延々と開発を続けることになります。一方で、電子デバイスの工法を開発する場合、基礎ができていなくても、研究用の装置を買ってきて、そこに液を入れれば、とりあえず研究がスタートできる状態にはなるわけです。しかしながらバックグラウンドにはインクジェットの基礎的な技術がほとんど無い状態で、いきなり装置を何とか使いこなそうとします。

インクメーカーが長年に渡って研究してきた液ならば、ある程度は吐出性が確認されていますが、ヘッドとの適合性が十分得られていないような液で実験を始めると吐出がなかなか安定しません。さて、この原因はとなると、液の設計が悪いのか、ヘッドの選定が間違っていたのか、ヘッドの駆動波形が最適でないのか・・・・・など、様々な原因が仮説として出てきますので、これを1つずつ確認していく作業が始まります。これでは研究がなかなか進みません。

そこで知見を得るために考えられることは2つです。

書籍から学ぶ

当社のホームページでは、インクジェットに関する専門書籍を扱っています。
また、知識として学ぶのに良い本が1冊あります。その名も『インクジェット』という本です。
この本はインクジェットプリンターを開発してきた人や、開発している各分野の専門家が体系立てて内容を整理して まとめたものなので、効率よく基礎を学びたい人にとっては、非常に学びやすい本です。

セミナーで学ぶ

一番身近な方法としては、購入した研究開発用装置のメーカーから教えてもらうことです。

  • 得意分野がマッチしている
  • 技術やノウハウを蓄積している
  • 自社製ヘッドを開発できる技術を持っている

メーカーに教えてもらう際には、そのメーカーの得意分野がどこなのか、どの程度の期間、技術やノウハウを蓄積しているのかといったことが重要です。ヘッドを購入してきて、電気信号の仕様書を見て回路を作って、精密に動く部品を使ってメカニズムを作ったような装置では、肝心なノウハウがほとんど無いので、問題が起こっても一緒に悩むだけです。一番はヘッドが要ですので、自社製ヘッドを開発できる程度の技術は最低限必要です。

当社ではこれらをふまえて装置購入後のサポートに力を入れたり、各種セミナーを開催しております。

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原因③ インクジェット用液材料の開発やそれに適したヘッド開発が進展していない

インクジェット用液材料の開発が進まない原因として、主な要因が2つあります。
  • ・液材料開発の観点から必要なヘッドの知識を学ぶ機会が非常に限られている
  • ・産業用途に適したヘッドの開発が進んでいない

要因Ⅰ. 液材料開発の観点から必要なヘッドの知識を学ぶ機会が非常に限られている

液開発者といえどもヘッドについて深い知識を持っていることが必要ですが、ヘッドについて液材料開発の観点から必要なことを学ぶ機会が非常に限られているということです。
インクジェットを文字や画像の印刷分野以外の産業分野へ応用していくには、なんと言っても、要となるのはインクジェットヘッドで安定吐出が可能な液の開発です。液開発については大きく分類すると以下のようなケースが考えられます。

  • ・開発した液が既にある:ある機能を実現できる液がすでにあり、これをインクジェット吐出したい
  • ・液をこれから開発する:ある機能を実現したいが、液はこれから開発する
【 開発した液が既にある場合 】

多くは、スクリーン印刷のインキやスピンコーターで既に使われている液をインクジェットで吐出したいということになります。
インクジェットで吐出するには液の粘度をヘッドの適正範囲(仕様)に合わせるべく、液を希釈するといったことが一般的に行われますが、これで上手くいくことはほとんどありません。なぜなら粘度以外にもインクジェット吐出液として満たさなければならない要因が多数あるわけですが、これらがほとんど考慮されていないからです。

【 液をこれから開発する場合 】

粘度や表面張力をヘッドの許容レンジに作り込む程度のことは初歩的にも行われますが、それでは満たすべき条件のほんの一部しか満たしていません。

ならばどう開発していけばよいのかということですが、基本的には最も可能性のあるヘッドを選定し、それを使って安定吐出と本来の機能を両立できるように、液成分を調整しながら実験を積み重ねていくことになります。

開発の進め方


しかしここで問題なのは、最も可能性が高いヘッドがどのヘッドかということがわからないことと、実験を行った結果、安定吐出が実現しないときに、何が原因か、それに対してどのように対策を取れば良いのかが明確にならないことです。

これを実現するには、実は液開発者といえども、ヘッドについて深い知識を持っていることが必要です。
ヘッドの知識がないままに液の物性だけを追い込んでも、安定吐出できる液の開発には多くの時間と開発費を要します。
自分の担当技術分野を深掘りするには、その周辺まで含めて理解していくことが求められます。

「インクジェットヘッドの選定」はこちら

要因Ⅱ. 産業用途に適したヘッドの開発が進んでいない

ヘッドの開発や改良には多くの時間と開発費を要します。
その理由としては、ヘッドの構造や材料、工法を変えると非常に多くの評価をやり直す必要があるためです。

吐出の安定性は、非常に微妙なバランスの上に成り立っているため、わずかな変更によっても大きな影響が出てきます。また、非常に狭い許容範囲で成り立っているため、ある特性を優先すると別の特性が満たされないといったことが起こります。液材が異なれば、液材ごとに多くの特性の確認が必要となります。

ヘッドに関係する要素

液材の用途の市場性が高く、多くの生産現場で液材が大量に消費され、そこで使用されるヘッドも相当数になれば開発費も回収できますが、数十や数百個程度では回収は難しくなります。このような中で最近では、何社かのヘッドメーカーから、ものづくり用の特殊ヘッドが販売されていますが、その種類はまだ限られています。

現在の特殊ヘッドとしては高耐液のヘッド、例えばNMPのような強い溶剤に対する耐性を持つ接着剤が使用されているヘッドや、ノズルごとの液滴スピードを調整できるDPN機能を持ったヘッドがあります。しかし、これらのヘッドは非常に高価なため、研究開発現場では手軽に評価できるような状況にはなっていません。
また、ヘッドメーカーとして特定の液材料に対して保証するためには、その液を使って多くの評価を行う必要がありますが、様々な液材料を評価できるような体制が無いといったこともヘッドの開発が進まない原因の一つです。しかしながらプリンター市場では競争が激化してきているので、今後は新しいマーケットであるものづくり分野のヘッドを強化してくるものと考えられます。その場合、液材料メーカーがヘッドについての知識を持っている必要があるのと同様に、ヘッドメーカーが液についての知識をしっかりと持っている必要があります。いずれにしても各要素間での情報の共有が開発のスピードを決定づけることは間違いないでしょう。

技術サービスを受ける

当社は、これまで長年蓄えてきたインクジェット技術やノウハウを駆使して、一番重要な インクジェットヘッドの選定から始まり、吐出実験や試作・測定サービスまでを一貫して提供しています。まずインクジェット装置を導入するのではなく、適切なプロセスに基づきヘッドを選定し、一連の実験方法を学んだ後に、それらを参考にして研究機器をレンタルして研究を行えば、より確実なインクジェット開発実現可能性を検討することができます。

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